2025年9月9日火曜日

「風と報復」The Wind and the Reckoning 5/7

ハワイで『風と報復』が話題になったのは,セリフの80%がハワイ語だったということが大きく関係している.英訳は字幕で画面に表示された。ここまでハワイ語を使用した映画は初と言っていい.同時代を扱った映画『プリンセス・カイウラニ』でもごく一部の場面を除いてハワイ語のセリフはない.アニメーション映画『モアナと伝説の海』のハワイ語吹き替えが存在するし,演劇の世界では全てハワイ語の作品が次々と上演されているという例はあり,これはこれで注目すべきことだ.しかし、ハワイ語吹き替え版と演劇作品は小規模なハワイ語コミュニティーを聴衆として想定しているのに対し、映画はより多くの聴衆に向けられている。そのような作品をハワイ語のセリフで構成するという選択が挑戦的だったと言える。コオラウを演じたジェイソン・スコット・リーはハワイ出身の俳優で,ハワイ先住民系であるが,世代的にイマージョン教育が設置される前の世代ということもあり,ハワイ語を話して育ったわけではない.彼のセリフはとても良く訓練されてはいるので、ハワイ語に馴染みのない聴衆であれば、彼が見事にコオラウを演じているという印象を持つだろう。しかし、近年生まれている新たな母語話者や第二言語としてのハワイ語使用者たちの発話と比べると、熟達度が高いとは言えない。しかし,そうなることを承知の上で,この役を引き受けた役者としての彼の覚悟を感じることはできる.