コオラウの物語が伝えられているのは,当時,ハワイ語や英語の新聞で報じられたことに加え,妻のピイラニによる回想記が残されているからだ.回想記は最初にハワイ語で,その後,英訳で出版された.また,それを元にアメリカの小説家ジャック・ロンドン(Jack London)が1909年に小説を執筆し,映画の資料の1つとなっている.コオラウの物語が注目されるのは,彼が隔離を拒否して抵抗した1893年がハワイ王国転覆のクーデターがあったのと同じ年だからだ。コオラウの行動は、クーデターを実施した白人集団からなる臨時政府に対する先住民たちの抵抗を想起させる.一方、リンゼイ・ワトソンが演じたピイラニの描かれ方も印象的だ。特に、髪を風にたなびかせたピイラニが黄色の服を身に纏った姿が映画の宣材写真として用いられていた。私はこの写真を見て、先住民活動家のハウナニ・ケイ・トラスクを思い出した。映像や写真の中のトラスクは多くの場合,キーケパ(タヒチではパレオ、サモアではラヴァラヴァ、フィジーではスルなどと呼ばれる)を身につけた姿だ。ピイラニをトラスクに重ね合わせてみるのは単なる思い込みかもしれないが、トラスク自身が1996年のインタビューで(Burlingame 1996)、キーケパを美しいと評し、ムウムウが外部から押し付けられたスタイルであるのとは対照的に、キーケパを着ることは政治的な行為であり、サウス・パシフィックとの結びつきを生む、と述べている。だからトラスクを想起させるピイラニの写真も政治的な声明と言えそうだ.