「50ファースト・デイツ」(50 First Dates)(邦題は「50回目のファーストキス」)はアダム・サンドラー主演のコメディー映画で,恋人ルーシーが事故の後遺症で記憶が1日しか保持されないという設定を軸に物語が展開する。これはこれで楽しめるのだが、舞台がハワイであるものの、1年を通じて季節の変化がそれほど大きくなく、前日の出来事を覚えていないルーシーが違和感を感じにくいということが設定上重要であることを除くと、舞台がハワイであることはそれほど必然ではない。とはいえ、映画の中ではハワイらしさの演出のためにピジンが登場する。例えば、主人公のヘンリーが通うダイナーの店員ニックがピジンを話している.ニックは大柄な先住民系の男性であり,褐色の肌をしていて,全身にタトゥーがあることから「タトゥー・フェイス」というあだ名を付けられている.こうした特徴を持つニックがピジンを話すと彼のハワイらしさが増すのであり、この役をハワイ出身の俳優ポーマイカイ・ブラウンが演じていることで,視聴者にとっても違和感のない配役になっている.一方、ヘンリーの友人ウラという先住民系キャラクターはパロディー化されたピジンを話したり、会話の中にハワイ語を散りばめたりしているが、こちらは本物らしさを追求しているというより、ハワイ出身ではないコメディアン(フィリピン系のアジア系アメリカ人)が奇想天外な道化役を演じているという面白さがある。とはいえ、こうした演出はピジンを滑稽さと改めて結びつけ、従来のステレオタイプを再生産する。そして、重要なのは、ハワイで生まれ育ったルーシーがピジンを話さないという点だ。母親はハワイ出身のようだが、白人家庭であり、女性であるルーシーが英語を話すという設定は見過ごしてしまいそうだが、通常、ピジンが白人以外のエスニック集団、社会階層、ジェンダーと結びつけて理解されていることの証左でもある。