次にフィクションに移ろう。「カ・ホイ」(Ka Hoʻi)はハワイ語で、英訳はThe Return(帰還)となっている。2022年PBS短編映画祭への出品作品として、Facebookで視聴でき(ログイン不要)、PICのYouTubeチャンネルでも視聴可能となっている。(おそらくベトナム戦争の)退役軍人であるハワイ先住民の男性アダム・ポキイが主人公で、彼はPTSDを患っており、年齢による身体的な衰えも見られる。妻と息子がいるが、家族とは疎遠なようだ。雑貨を購入する店でもぞんざいな扱いを受け、自分が周囲の人々から忘れられていく悲哀に抗うことなく、静かに余生を送っているのだが、時折、戦闘の記憶が蘇り、亡くなった戦友たちのことを思い出す。そして、気づくと、最後はかつての仲間たちに迎え入れられて別の世界へ「帰還」するというストーリーである。どちらかというと悲しいストーリーではあるのだけど、ハワイの郊外の街並みや日差し、それと対照的に陰影の効いた室内、家の中のインテリア、環境音にハワイらしい生活感が滲んでいる。さらに、この映画では、「アラモアナ・ボーイズ」と「ハワイアン・ソウル」で描かれていたアメリカ軍によって抑圧されるハワイ先住民という構図と共通しつつも少し異なる関係性が描かれている。主人公のアダム・ポキイは退役軍人として、戦友との強い絆を持ち、アメリカ軍の内部にいた。自らの意思で入隊したのかもしれないし、やむを得ない事情があったのかもしれない。いずれにせよ、ハワイ先住民が祖国を併合したアメリカという国家の軍隊に属し、そこでハワイとは離れた場所で深刻な心理的なダメージを負うような体験をした(そしてそれは今も続いている)という点を念頭に置いた上で映画を見てほしい。