今回紹介するのはそれぞれ8分から20分程度の長さで,ノンフィクションを2作品,フィクション3作品となる.まず,ノンフィクション1作品目の「アラモアナ・ボーイズ」(Ala Moana Boys)は,2022年のPBS短編映画祭の出品作品で,Facebookで視聴できる(ログイン不要).出資を受けている非営利団体Pacific Islanders in Communications(PIC)のYouTubeチャンネルでも視聴可能である.「アラモアナ・ボーイズ」には5人のローカルボーイ(ホレス・イイダ,ベニー・アハクエロ,ジョセフ・カハハヴァイ,ヘンリー・チャン,デイヴィッド・タカイ)が登場するが,彼らは皆,実在の人物で1930年代のマッシー裁判(The Massie Case)の当事者である.マッシー裁判の概要は以下の通りだ.海軍兵士の妻,セーリア・マッシーが男性たちにレイプされたと主張し,上記5名が逮捕されたものの,裁判では証拠不十分のため無評決審理となり,5名は保釈金を払い釈放された.その後,5名うち1人が暴行を受け,さらにその後,セーリアの母親と夫を含む数名がジョセフ・カハハヴァイを拉致し,銃で殺害した容疑で逮捕された.大前提としては,最初のレイプ裁判ではセーリアの証言に不自然な点が数多くあったのに対し,次のカハハヴァイ拉致・殺害裁判では多数の確実な証拠があった.結局,セーリアの母親たちは有罪となるのだが,ハワイとアメリカの白人社会や海軍からの批判や圧力に屈する形で,知事のジャッドが介入し,セーリアの母親と夫は罪に問われることなく(10年間の重労働が1時間の知事室での滞在に減刑された),ハワイを離れ,サンフランシスコへと戻ったのである.カハハヴァイ殺害はいわば白人による「名誉殺人」として正当化され,ハワイの歴史における不正義が人種と結びついた形で記憶されている.当時のハワイはアメリカに併合された(州ではない)準州であり,非白人が多数派を占め,軍による占拠が続いている,というような状況だった.これが映画「アラモアナ・ボーイズ」の歴史・社会的背景である.しかし,20分の短編映画の中でここで説明した背景が全て詳細に描かれているわけではない.この映画が作られたのは,過去の不正義を忘れないためであると同時に,現在も存在する不正義に対する強い問題意識があるからだろう.映画を観る際は,マッシー裁判にまつわるどの部分が描かれているのか,逆にどの部分が描かれていないのか,チェックすることもできる.また,ローカルの男性5名がどのように演じられているか,静かに近づいてくる脅威に対して彼らがどのように向き合ったのか,自分だったらどうするか,自分がその家族だったらどうするか,想像しながら視聴してみてはいかがだろう.映画では描かれていないが,実際の陪審員の人種構成は白人7,中国系2,ポルトガル系1,ハワイアン3だった.弁護側の主張がラジオ放送もされアメリカでも注目されていたこの裁判で,自分が陪審員を務めていたら,果たしてどのような判断をするだろうか.